ベンチャー創造の理論と戦略 |
第一部 起業機会 第一章 起業プロセス
本章の目的
- 「静かなる革命」現象と動向を検証する。
- 企業家精神の定義、実践、概念及び政策的課題を理解する。
- 成功する起業家は成功を如何に定義し、評価するかを理解する。
- 「失敗の法則」「失敗の法則の例外」を理解し、成功する新規事業のタイプを検証する。
- ニュー・ベンチャーの研究の枠組を検討する。
「静かなる革命」
- アメリカンドリーム
- アメリカン現在は、所謂「静かなる革命」の真っ中にある。「静かなる革命」は二○世紀における産業革命以上に、二一世紀に影響を及ぼす可能性がある。一九九三年、アメリカの成人就労人口一億二四〇〇万人のおよそ七分の一は自営業であるが、それ以外にも何百万人ものアメリカ人が自分の為に働こうとういう夢を抱いている。又、管理職等は他人の為に働く労働者と比較して、決して引退しないと考えている自営人口はその三倍以上に達する。
- 起業家は、自分自身、職業生活、経済的報酬に十分満足しており、個人的充足感、チャレンジ精神、プライド、そして報酬の何れについても最高のレベルにあると一様に答える。起業ゲームに没頭することにより、人生の充実感、エネルギー、意義を見出しているのである。
- アメリカの経済にとって起業家は重要な存在であり、その貢献領域は、リーダーシップ、マネジメント、経済的・社会的改革、イノベーション、研究発明、雇用の創出、競争力、生産性、新規企業の育成、地域経済の活性化等に及んでいる。
- 新時代の夜明け
- この経済発展の源泉はいまや全世界で発見でき、地球規模の持続的アントレプレナーシップにかつてない期待がかかっている。起業家精神の炎を燃やすことは、マーク・トウェインの言うところの「稲妻と蛍の違い」を知る国家と国民を力づける。
アントレプレナーシップとは何か
- 定義
- アントレプレナーシップとは、実際に何もないところから価値を創造する過程である。言い換えれば、起業機会を創り出すか、適切に捕らえ、資源の有無の遺憾に関わらずこれを追求するプロセスである。又、価値と利益を定義・創造し、個人、グループ、組織及び会社に分配する。アントレプレナーシップにおいて、短期間に一攫千金を狙うようなアプローチは極めてまれである。むしろ、それは長期的な価値の創造と継続的なキャッシューフローの形成である。アントレプレナーシップは、本質的に人間の創造的プロセスである。アントレプレナーシップは確固たるビジョンを確立し、迸る情熱、コミットメント、動機づけを持って、パートナー、顧客、取引先、従業員、資金の供給者などの利害関係者にそのビジョンを納得させるものである。又、個人的、経済的にも計算されたリスクを負い、そのリスクを極小化すべく最大限の努力を惜しまない。補完的能力を備えた経営チームを編成し、第三者には混沌矛盾、混沌としか見えない起業機会を察知し、必ずしも自分が所有するとは限らない経営資源を利用して、自らが信じる起業機会を追求する。そして、重要なことは、その成長段階で最も重要な時期に資金繰りに失敗することのないように細心の注意を払うことである。
- アントレプレナーシップ切迫性
- 実践的な課題
- アントレプレナーシップは個々の構成要素やプロセスを個別に取り扱うのではなく、新規事業とそれに関する創業者と経営チームを一体として扱わなければならない。教育的観点から焦点が当てられる実践的な課題とは、創業者と経営チームが成功する為に必要となる起業家活動の概念、スキル、ノウホウ、人脈、姿勢、経営判断、経営資源等である。
- 社会政策上の課題
- アントレプレナーシップの研究は、社会政策上の観点からも重要な課題である。アントレプレナーシップの領域は新規事業に留まらない。社会政策上の課題として、少なくとも以下の考慮が必要ある:
- 新設企業及び既存企業における起業機会の認識、育成、拡大
- 企業の成長、存続及び革新
- 新設企業、成長企業、衰退企業のファイナンス
- 大企業におけるアントレプレナーシップの戦略に地位
- 社会政策
ベンチャー企業の失敗
- 失敗の法則
- 自由経済下では誰でもベンチャーを起業し、成功することができる。事業を成功させるには天才である必要はない。アントレプ レナーシップの定義に関する価値の創造と分配は、創業社長の身ならず、パートナー、顧客、取引先、従業員、資金の供給者等の利害関係者にも共通する命題である。ベンチャーが創業時の苦難を乗り越えて存続に成功したとしても、その事業からキャピタルゲインを得ることはおろか、十分な収益を確保することは至難の技である。殆どの場合は、大多数のベンチャー企業にとっては生き残ることさえ極めて難しい。ベンチャーの起業プロセスには、「失敗の法則」であり例外ではないと言うである。失敗の定義と識別は簡単ではなく、信頼できる統計やデータベースは存在しない。従って、正確な数字を把握することは困難である。以下の図表は過去五十年に渡る失敗率に関する多くの研究から抜粋である。
- 失敗に要する時間
- 次のグラフは、小規模ビジネスがスタート後、2年、4年、6年間で解散に至った比率を表している。
- 失敗な理由
- その他
- 過剰な借入金、営業経費、運転資金のショート等
- 事業上の衝突、同族間の問題、事業上の怠慢等を含む
- 災害や詐欺等
- イノベーション、経済的再建及び学習
- アントレプレナーシップのプロセスで起こるベンチャーの消滅は、Joseph Schumpeterの言うところの「創造の破壊」の一部である。それは、自由経済におけるイノベーションと経済的再建のダイナミックス、即ち生と死を要するプロセスの一部である。事業は消滅するが、起業家は再び立ち上り、又新たな起業を目指すである。
失敗の法則の例外
- 潜在能力の高いベンチャー
- 潜在能力の高いベンチャーや優良な中小企業には、失敗よりもむしろ成功が約束されている。これらの会社は卓越した経験豊富な創業者が魅力ある起業機会を追求し、適切な人材、必要な資金、その他経営資源を駆使してベンチャーを成功させる。
- ベンチャータイプ
- 毎年開業するベンチャーの大多数は、自分のライフスタイル為には収入を施政犠牲にすることを厭わない、従業員一〜二名の従来型の零細事業である。これをパパママ・ベンチャー、限界的企業、或は生業ベンチャーと呼ぶ。アントレプレナーシップには、他の二種類のベンチャーがある。一つは、創業者ベンチャー或は優良中小企業である。もう一つ例外なベンチャーは、「潜在能力の高いベンチャー」と呼ばれ、相当額のキャピタルゲインを獲得できる潜在能力を持ったものである。
- 潜在能力の高いベンチャーの特徴を次のように要約している:
- マネジメント----中核となる人材を確保することができる。
- ベンチャー戦略----非常に高い利益率、より優れた品質、起業機会へ素早い対応、規制緩和、市場革新、ニッチ戦略、有利な取引形態等の条件を最大限に利用した市場参入、高い対売上比率のマーケティング経費、重要な仕入先とのより広い経験、ビジネスプランの変更が最小限であること。
- マーケット----急成長市場であり、より高いマーケットシェアを獲得可能であること。
- 最低存続可能規模の概念
- 表1:企業規模別1年後の存続率
| 企業規模(従業員) |
0〜9名 |
10〜19名 |
20〜99名 |
100〜249名 |
250+名 |
| 存続率 |
77.80% |
85.50% |
95.30% |
95.20% |
100% |
- 表2:企業規模別4年後の存続率
| 企業規模(従業員) |
0〜9名 |
20〜49名 |
50〜99名 |
100〜499名 |
| 存続率 |
37.40% |
53.60% |
55.70% |
67.70% |
| カリフォルニア洲存続率(1976〜80) |
49.90% |
66.90% |
66.90% |
70.00% |
- 成長の約束
- 6年以上存続した新規中小企業の割合
- ベンチャー・キャピタルの支援
- 表1:ベンチャー・キャピタルの支援がスタートアップに必要不可欠でないことは明らかであり、成功の保証せもない。
| ベンチャー・キャピタル投資先の成功率調査 |
成功率 |
| @ベンチャー・キャピタル調査(1983)―ポートフォリオ投資企業232社ベンチャー・キャピタル企業32社 |
85% |
| A国際的なベンチャー・キャピタルの結果(1972-88)―アメリカ・イギリス・カナダ・ベルギーにおける投資総額6000万ドル |
85% |
| Bウエールズ・ファーゴ銀行調査(1972年)―ハイテク企業279社 |
65% |
| CMITTほかの研究機関による調査 |
80〜82% |
- 表2:1〜6年平均成長率
失敗の法則の例外
- ベンチャー起業の推進要件
- ベンチャーの起業プロセスの研究では、従来型のモデル、例えば心理的モデル、或いは競争戦略モデル等 は役に立たないということが分かる。第一に、新規事業の成功例を纏めて共通の法則を導き出そうとういう単次元のモデルは、全体の一部を説明するに過ぎない。第二に、成功したいベンチャーの特徴を論理的に研究しても、それは比較的新しい、論理の確立に至っていない領域である。第三に、アントレプレナーシップは現実の世界の起業活動であり、確実性、予測性、安定性、洗練度を伴わない。リスク、曖昧、矛盾、不完全で不均一かつ真空状態に満ちた市場が当然であり、常に例外が存在する。その結果、市場、技術、資源は常に混沌と変化している。重層構造の大企業と公共企業体が新規事業開発の分野で競争力とイノベーションを発揮できないのは当然である。
図表:起業活動を取り巻く環境と主要な推進力
- 新規事業創造の必要条件である起業プロセスの三つの構成要件は、「創業者」「起業機会の認識」及び「必要資源」である。これら新規事業の推進要件を適切に分析し、最大限に利用することで成功の可能性が飛躍的に向上する。ベンチャー創造の過程における、これら三推進要件のリアルタイムで継続的、慎重かつ現実的な評価が新規事業の成功の鍵となる。
- タイミングの重要性
- アントレプレナーシップは、時が味方が敵が、又はその両方かを問わずリアルタイムで進行する。従って、全てのベンチャー起業プロセスにおいても、タイミングは決定的である。起業機会の認識と把握のタイミングは、砂時計との厳しいレース―――砂時計で落ちる砂は流出する現金である。
- 創業者
- 先導起業家と経営チーム
- ベンチャー経営チームがアントレプレナーシップのプロセスの推進要件であることは、新規事業を成功させる最も重要な五つの条件は何かという質問に対するベンチャー・キャピタリストの回答:
- 先導創業者と経営チームの能力
- マーケットの将来性
- 単独起業家
- 経営チームに隠れた存在として、膨大な研究と過去の経験が単独起業家の存在を指摘している。急成長するベンチャー企業が、経営チームにより十分な利益を確保してキャピタルゲインを目指すのに対し、単独起業家は独自のニッチ経営手法と効率的な利益の再投資により、何百万ドルという所得を得ている。これはベンチャー企業の基本的な推進力がチームなしても機能する例外である。
- 起業機会の認識
- アイデアは必ずしも起業機会ではない
- 起業機会は、アントレプレナーシップの起爆剤である。アイデアと起業機会は同一ではない。アイデアは起業機会の出発点であり核である。起業機会とは、高付加価値の製品やサービスを顧客やエンドユーザーに提供する行為に基づく、高付加価値創造のプロセスである。状況の変化、矛盾、混沌、競争的行為のタイムラグ、情報のギャップ、その他様々な真空状態の存在を起業家が適切に認識し、事業化するより、初めて機会が生まれる。そして、継続的な高マージン率、高利益率を伴った起業機会が基盤となって、初めて新規ベンチャー事業が成功する。従って、ベンチャー成功への挑戦課題は、矛盾したデータ、兆候、市場の雑然とした狂騒や混沌に埋もれた起業機会を発掘することである。市場が知識や情報のギャップ、非対称、矛盾等の理由からみ完成であれば、起業機会はより豊富である。タイミングが早すぎる、遅すぎる、或はその存在さえ気づかれていない状況下で、有能な起業家のみが絶大な起業機会を認識し、事業化することができる。
- 推進要件の適合性とタイミング
- 起業機会は状況に極めて左右され易く、創業者とベンチャー経営チームの特性に加え競合他社の構成、当該起業機会の潜在的可能性に左右されると言う仮説を支持している。新規事業の殆どがアイデア、創業者、ベンチャー企業の存続に不可欠な顧客の確保に至る以前に資金不足に陥ってしまう。つまり、新規事業の立ち上げにとって、タイミングこそがすべてである。起業機会とは、常に揺れ動いている標的であり、「起業機会の入り口」として存在しているである。
- 必要資源
- 最低必要資源の管理
- 三番目の要件として、起業機会に要する資源の特定、収集、管理がある。優れた起業家は、資源に関して極めて特異なメンタリティを持っている。
- 最小の資源から最大の成果を引き出す能力を持っている。
- 資源の有効活用がいかに事業の成功にとって重要かを知っている。
- 資源の保有ではなく、コントロールを主体として、借用、賃借する。
- ベンチャー資金
- 第三の推進要件として、ベンチャー企業の立ち上げに最も重要な要素として、大多数人は資金を挙げる。
- 新規企業の立ち上げ
- この段階では、ビジネスプランがベンチャー推進要件のギャップと適合性を明確化し、ベンチャーのビジョンを一つに纏めて、事業成功の情熱と創業者、経営チーム、従業員に伝え、奮い立たせる。でも、どんな起業家もベンチャー戦略を考え出すことができるが長期な成功に必要な戦術を作成し、実行するには、あらゆる助けを必要とする。
- ベンチャー企業による高付加価値の創造
- ベンチャー企業、ベンチャー企業の支援者、その他の利害関係者(パートナー、従業員、顧客、引取業者)にとって、高付加価値の創造は起業プロセスの最終的な結果でしかない。従って、価値収穫をその萌芽以前に議論するのはナンセンスである。ベンチャーの立ち上げ、育成、収穫は、其々別々のプロセスである。
起業家精神
- 成功する起業家の活動
- 成功する起業家には共通の姿勢と行動形態がある:
- 強い責任感と強固な忍耐力が推進力となって惜しみなく働く。
- 誠実さを追求し、競争心に満ちて絶対に勝つことができるという強い思いに燃えている。
- 現状に満足せず、起業機会で遭遇するあらゆる状況を改善しようとする。
- 失敗を学習の道具として利用し、完璧であることよりも効率を優先せる。
- 自分の努力がベンチャーや人生を成功に導くことができると信じて疑わない。
- 独創性や革新性の才能等に止まらず、経営能力、事業のノウハウ、十分な人脈を兼ね備えている。
- 経験の学習・・五万パターンの経験
- 起業家と自営業者の職歴に関する調査によると、経験とノウハウの蓄積がベンチャーの成功にとって最も中心的存在であり、慎重な準備と計画の策定も非常に密接に関連していることが分かった。こらが「五万パターンの経験」である。
- 役割モテル
- 数多くの調査が役割モデルの存在と、起業家の出現との強い関係を報告している。
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