ベンチャー創造の理論と戦略 |
第四部 ベンチャー企業財務戦略 第一章 ベンチャーの資金調達
本章の目的
- 新規ベンチャー企業の資金調達における重要な課題を検討する。
- ベンチャーの資金調達と従来の企業財務手法との違いを理解する。
- 新規ベンチャー企業の財務のライフサイクル、財務戦略の枠組、投資家の選好等、ベンチャー企業財務戦略の策定と重要な変数を検証する。
ベンチャー財務戦略――起業家のアキレス腱
- ベンチャー企業の財務には、その中核となる三原則が存在する。
- 少ない現金よりもより多くの現金
- 将来の現金よりも現在の現金
- リスクの大きい現金よりもリスクの小さい現金
- 資金調達の重要課題
- 最も潜在能力の高いベンチャー企業にとって、資金調達戦略の策定、調達方法の知識、適切な資金の調達は、その生存と成功に不可欠なタスクである。これは、価値の創造、ベンチャー企業の利害関係者・参加者間の利害調整、ベンチャー固有のリスクに如何に対応するかの三点である。
- 価値の創造
- キャッシュフローの増加と収穫の達成に不可欠である価値を創造・付加する対象となる顧客基盤とは何か。
- ベンチャー企業の利害関係者・参加者間の利害調整
- 新規ベンチャーの企業の設立、既存ベンチャー企業の買収は、資本政策、資金調達の観点から、如何に構築・価値評価されるべきか、又税務上の影響はどうか。
- 外部のリスク・キャピタルの調達に伴う法的手続きと主要な課題とは何か。
- ベンチャー・キャピタル、金融機関、その他の投資家に対して、有効なプレゼンテーションを如何に行うか。
- 前記の質問に伴う財務分析や価値評価について、コンピュータやアプリケーション・ソフトを如何に利用することができるか。
- 起業家が予測、準備、対応しなければならない数々の落とし穴や危険とは何か。
- これらについて対応のタイミングの重要性、感応度はどうか。
- ベンチャー固有のリスクに如何に対応するか
- 新規ベンチャー企業や新興企業にとって、事業遂行に必要な運転資金を明確に把握することは特に重要である。
- ベンチャー企業の創業、買収、成長に要する資金とは何か。又いつ、如何にして、許容できる条件で資金調達できるか。
- 株式、負債、その他革新的な調達手法がリスク・キャピタルやベンチャー・キャピタルから利用可能か。又、如何に交渉し、資金調達を達成するか。
- 開拓すべき資金調達の人脈とネットワークとは何か。
- 成功する起業家は、起業機会に不可欠な事業資金を如何に調達し、どのような落とし穴を如何に回避するのか。
- 図表:起業活動における資金調達の中核的課題
- 財務管理の落し穴−−それは当社に起こるはずがない
- 「回収は早く、支払いは遅く」を超えて
- 数々の起業家や経営者の自身、財務分析と経営戦略との関係について、専門知識が不足していることに何らかの不安を感じている。大部分の起業家や財務の専門知識を持たない経営者が不利な立場に置かれているのは確かである。「回収は早く、支払いは遅く」といった初歩的な手法以外、複雑でダイナミックなファイナンスと企業戦略の相関関係を理解する洗練された財務能力もなく、ただ不安のみが支配する。営業能力に長け、売上や利益に多大に貢献する優れたけ経営者でさえ、売上の増加と売掛金や在庫のファイナンスに要する増加運転資金の関係に気付いた時には手遅れといったケースが余りも多い。
- スプレッド・シートの幻想
- 従来のスプレッド・シート分析は、データの報告と操作に終結するのみである。数字はそこにあろうし、傾向も明確化される。スプレッド・シート自体では、起業家が把握したい財務と経営戦略の複雑な相関関係のモデルを構築することができない。取締役会にとって、この情報を入手できないことは致命であり、僅かの遅れさえ決定的なものになる。多くの場合は、財務管理能力に優れた起業家は、ごく平均的に過ぎないベンチャー企業を超優良企業に育成することができる。起業家の多くが、競合他社の優秀な財務知識のあるCEOの能力を過小評価する。この競合他社が、財務管理能力に弱みを持つ起業家に、隠れた武器を持って襲いかかることに疑いの余地はない
- 財務管理の最重要課題:資産管理の危機予測と確認事項
- 落とし穴を回避するには、起業家は経営上の戦略的意思決定を財務計画や選択肢に関連付ける質問に答えなければならない。最重要な課題とは資金予測である。即ち、最も起こる可能性の高い事象とは何か。どの時点で、何か順調に進み、何か計画を逸脱するのか。財務の感覚を持った起業家であれば、こういった質問が、財務的課題や問題に創造的解決策を齎すプロセスへと導くことを承知している。実務上、財務的に洗練された経営者は、核心的な戦略、財務的要点に細心の注意を払っている。
- 価格設定、売上数量、販売政策等の重要な経営戦略の変更がバランスシートに与える影響は何か。又、将来における変更の可能性があるか。
- 会計原則の財務情報に限定することなしに経営管理の観点から財務戦略や財務構造の変化をどのように分析管理できるか。
- 業界における過度の急成長とは、一体何を意味するのか。外部資金に依存することなく、如何に成長を達成することができるか。X%の成長率の増加、減少によって、資金需要はどう変化するか。
- X%の成長率のズレによって、キャッシュフロー、利益、資産利益率、株主資本はどう変化するか。
- 必要な運転資本は何か。内部調達できる額と外部調達すべき額とは何か。最適な資本構成とは何か。
- 利益が事業計画を20%下回った場合の影響は何か。
- 注目すべき焦点と優先順位は何か。製品群別、事業部門別、或は会社全体のキャッシュフロー損益の分岐点は何か。
- 価格、売上数量、売上原価等、販売政策の影響は何か。価格、変動費、売上数量に対するキャッシュフローの感応度はどのような価格・数量のミックスで、同様のキャッシュフローと純利益が達成できるか。
- 価格政策、原価構造、売上数量の変化が、主要な財務に与える影響は何か。又、業界の競合他社と如何に対比されるか。金融機関の反応はどうか。
- スタートアップ期、急成長期、停滞期、成熟期等、成長の各段階で、これらの確認事項に如何に対応すべきか。
- ベンチャー企業の資金調達−−オーナーの観点
- 理論的にも実務的にも、潜在能力の高いベンチャー企業財務と上場大企業の財務管理には、多くの明確かつ微妙な違いがある。更に、新規ベンチャー企業にとって財務理論には、重要な限界が存在する。財務理論の限界、ベンチャー企業財務の領域の相違、その意味を適切に理解することは、起業家にとっての中核的タスクである。
- これら限界と相違点の特色と機微を理解する為、次の項目を検討してみる。
- キャッシュフローと現預金
- キャッシュフローと現預金は、ベンチャー企業財務の最優先課題である。発生主義会計、一株当り利益、創造的・積極的な戦略や証券規則の解釈ではない。
- 時間とタイミング
- 企業財務の健全性を支える資金調達手段の選択肢は、時間的側面に敏感で多大な影響を受け易い。ベンチャー企業財務では、重要な財務活動の時間は短く、凝縮されている。これら財務活動に最適のタイミングは、より素早い変化し、上下、前後、左右に揺れ動く。
- 資本市場
- ベンチャー資本市場の95%以上は相対的に非対称であり、アクセス不能、未組織化、非顕在化の場合が多い。事実上、資本資産価格モデル等一般的な財務理論や、モデルを支配する根本的な市場の性格と前提条件は、ベンチャー企業の株式公開の時点まで、単純には適用できない。実際には、非常に多くの情報、知識、市場のギャップ、非対称性が存在する為、効率的かつ完全市場モデルに基づいた財務理論には重大な限界がある。
- 付加価値の重要性
- 潜在能力のより高いベンチャー企業の成功にとって、資本は重要性の低い要件の一つである。むしろ、最も良い条件の資金調達取引に加え、事業に関するノウハウ、経験、アドバイス、経営支援を提供できる資金の供給者を求め、資金以上に、同時に提供される付加価値によって資金調達方法を決定する。
- 資金調達戦略
- 調達資金を最適化・最大化する戦略は、現実には新興企業のリスクを小さくするよりも大きくする。従って、「段階的資金供給」のコンセプト――即ち、資金を3ヶ月〜18ヶ月の期間で段階的に供給し、その期間中の業績と将来性に基付いて後発の資金供給を考慮するが、ベンチャー・キャピタル等の投資家が潜在能力の高いベンチャー企業に投資する際の一般的慣行である。同様に、賢明な起業家は、企業価値の魅力が比較的低く、将来的にその上昇が予想される場合、現時点における過度の資金調達を拒否することが多い。
- ダウンサイド・リスク
- 新興企業のオーナーにとっての財務戦略や財務上の意思決定のダウンサイド・リスクは、大企業の経営者のそれと比較して極めて個人的・感情的である。銀行その他の債務の個人保証が一般的である為、こういった起業家が経験する資金管理失敗の結末は、悲惨かつ破局的である。
- リスクとリターンの関係
- リスクが高まるにつれてリターンも上昇するとしたリスクとリターンの関係(いわゆる経済とファイナンスの法則)は、効率的で成熟した相対的に完全な資本市場で十分その機能を果たしている。最大の投資収益率を達成するベンチャー投資には、当初から極めて低いリスクの事業が多く存在する。
- 企業価値の評価方法
- 既存の企業価値評価方法、例えばウォールストリートのメガディールで利用されるディスカウンテット・キャッシュフロー法は、非公開の新興ベンチャー企業の買い手よりも売り手に有利のようである。
- 従来の財務指標
- 現在一般的に財務指標として利用されている財務比率を非公開のベンチャー企業にそのまま適用すると誤解を招くことが多い。
- 起業家は同時に複数の企業を所有している場合が多く、現実や資産を一方から他方に容易に移動することができる。
- ベンチャー企業の事業で最も重要な潜在的価値や資産の多くが、バランスシート上に表記されず、オフバランスである場合が多い。優れた経営チーム、科学者、技術者、設計担当者、売買できないノウハウやビジネス関係等は、貸借対照表で推し量ることはできない。
- 長期的な成長目標
- 四半期ごとの利益の最大化よりも、長期間に渡る価値の創造が、大きく成功する起業家の一般的概念と戦略である。ベンチャー企業にとっての利益とは、単なる会計原則上の純利益以上であり、潜在能力の高いベンチャー企業の財務戦略は、短期的利益を犠牲にしてでも、ベンチャー本来の価値の増大を優先する。会計上の利益を原資として、初めて将来の成長に必要なベンチャーの価値創造が達成できるのである。
起業家倫理に関する障害
- ベンチャー企業の成長段階に関わらず、自分のベンチャーが必要とする資金は何か。どの時点で必要か。いつまで必要か。どこで、誰から調達できるか。資金調達のプロセスをどう調整し、管理すべきか。次に、これら質問を解答する。
- 起業家は同時に複数の企業を所有している場合が多く、現実や資産を一方から他方に容易に移動することができる。
- ベンチャー企業の事業で最も重要な潜在的価値や資産の多くが、バランスシート上に表記されず、オフバランスである場合が多い。優れた経営チーム、科学者、技術者、設計担当者、売買できないノウハウやビジネス関係等は、貸借対照表で推し量ることはできない。
- 図表:財務戦略の枠組み
- ぷりー・キャッシュフロー−−バーンレート、アウト・オブ・キャッシュ、取引所要時間
- ベンチャーの外部資金調達の決定の中核的コンセプトは、フリー・キャッシュフローである。これは三つの重要な構成条件によって決定される。これらは、ベンチャー企業の資金調達源の選択、交渉能力に多大な影響を及ぼす為、非常に重要である。
- バーンレート(Burn rate:予測と実績)
- アウト・オブ・キャッシュ(OOC:資金不足の時点)までの時間
- 取引所要時間(TTC:資金調達の取引を完了し、実際に現金が振込まれるまでの所要時間)
- 企業、或は事業活動から発生するキャッシュフローの定義は:
- 企業、或は事業活動から発生するキャッシュフローの定義は:
- 利息支払前税引前利益(EBIT)
- マイナス法人税(EBIT×税率)
- マイナス減価償却費、その他非現金費用
- マイナス運転資金増加分
- マイナス資本的支出
- エコノミストはこの数字をフリー・キャッシュフローと呼ぶ。この定義では、投資効果、利益に加えて、一定の売上と利益の達成に要する資産、運転資金、工場設備の投資額を考慮している。
- 運転資金の定義:
- 現金取引勘定残高
- プラス売掛金
- プラス棚卸資産
- プラスその他流動資産(前払費用等)
- プラス買掛金
- プラス未払税金
- プラスその他流動負債
- ここで、純運転資金総額増加分は、運転資金増加分(WC)
- ゆえに、これらの定義は次のとおり、一つに集約することができる。
- 利息支払前税引後利益(EBIAT)
- 図表:資金不足到達時点と起業家の交渉能力の関係
財務戦略と資金調達戦略の策定
- 重要な変動要因
- 資金調達に際し、利用可能な調達方法、適切性、コストに対して、次に挙げる要因が影響を与える。
- 過去の業績
- 投資家が認識するリスク
- 業界と技術
- ベンチャー企業の潜在能力と収穫の時期
- ベンチャー企業の予想成長率
- ベンチャー企業の設立年数と成長段階
- 投資家の期待収益率や内部利益率
- 必要調達資金とベンチャーの企業価値
- 成長、支配権、流動性、収穫に関する創業者の目標
- 交渉上の力関係
- 投資家が要求する条件と条項
- 一般的には、ベンチャー企業の事業資金は負債と株主資本の組み合わせにより調達される。更に、新規ベンチャー企業や既存企業は、成長の財務基盤が健全であれば、起業家の持株比率を過度に希薄化することなしに資金を調達することが可能であると、一般的に考えられている。通常、短期借入金(1年以内の負債)は運転資金に利用され、売上金から返済される。長期借入金(1年超の長期負債)の使途は、運転資金、或は借入金の担保に供される設備資産購入に充てられる。株主資本は、借入金で賄えない資金ギャップ、株主所有権の確保、債務返済不履行のリスクの限定に利用される。
- 既存企業が拡張資金や一時的な資金を調達する方がはるかに容易である。既存企業に対しては、銀行、投資家、リース会社、ファイナンス会社等は、重要な顧客、優れた投資先開拓の為、担保・無担保の短期・長期の資金を供与する場合が多い。更に既存の成長企業は、投資家や金融機関から、新規ベンチャー企業と比較して、より有利な条件で資金調達が可能である。
- 資金調達をタイミングよく、かつ低コストで達成するには、負債、株主資本の遺憾に関わらず、それぞれの状況で調達可能な供給源を利用する条件、指標を適切に理解することが中心的課題になるということである。
- 資金調達のライフサイクル
- 図表:ベンチャー・ファイナンスのライフサイクル・モデル
| 投資資金源 |
| エクイティ・キャピタル |
自己資金、友人からの資金 |
25万ドル未満 |
| エンジェル |
5万〜50万ドル |
| ベンチャー・キャピタル |
民間ベンチャー・キャピタル |
100万ドル以上 |
| SBIC |
35万ドル以上 |
| 戦略的事業提携 |
25万ドル以上 |
| リスク・キャピタル |
私募 |
35万〜500万ドル |
| 公開直前投資 |
100万〜1500万ドル |
| ESOP |
1000万ドル以上 |
|
500万ドル以上 |
- 資本コスト:コスト、資本コスト(期待収益率)
- この図表から分かる通り、どの程度の金額を提供するか、企業のどの段階で投資するか、資本コスト、期待収益率等、資金の供給源によって大きく変わり、国内の地域によっても違いがある。従って、株主資本の供給源は、ベンチャー企業がその初期成長期を越えるまで利用できないことが分かる。一方では、初期成長期に利用できる資金源泉の個人的関係、友人、その他インフォーマルな投資家やエンジェルには、特に会社が順調に成長した場合、その後の段階の資金需要には不十分となるものもある。又、資金調達の可能性を大きく左右する異なった要因に、ベンチャー企業の潜在能力がある。
- 投資家の年選好
- それぞれの投資家や金融機関がベンチャー企業投資を如何に意思決定するかは、その時々の個々のカテゴリーの投資家や金融機関、金融市場環境、地域によって大きく異なることを理解することが重要である。実現可能な資金供給源を特定し、資金調達戦略を策定することは、投資家や金融機関がどのような投資対象を求めているのかを知ることによって初めて可能となる。
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